1 単独申請を可能とすることとした理由
不登法では、権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならないとされていますが(不登法60条)、現行不登法 63条は、その例外として、確定判決による登記や相続・法人の合併による権利の移転の登記につき、登記権利者の単独申請によることを認めています。
もっとも、ここでいう「相続」には、いわゆる特定財産承継遺言(民法 1014条 2 項参照)が含まれるものの、遺贈は含まれず、他に別段の定めもないため、遺贈による所有権の移転の登記は、登記権利者である受遺者と登記義務者である遣言執行者(又は共同相続人)との共同申請によらなければならない(注 1) 。
(注1) 従来は、遺贈といわゆる特定財産承継逍言(遺産分割方法の指定と解釈される相続させる旨の遺言)との間の実務上の差異として、このような①不動産登記の単独申請の可否のほか 、②登録免許税の多寡 、③農地法 (昭和27年法律第229号)3 条の許可の要否、④賃借権の承継における賃貸人の承諾の要否(前者については必要、後者については不要)、⑤推定相続人の廃除の規定の適用の有無(前者については適用なし、後者については適用あり)等があるといわれていた。もっとも、現在では、②や③の場面では法律の改正によって差がなくなっており(登録免許税法17条 1 項、農地法 3 条 1 項16号、農地法施行規則(昭和 27年農林省令第 79号)15条 5 号参照)、両者の実際上の差異はより小さくなっていると指摘されています。
不登法において、このような共同申請の原則が採用されているのは、登記権利者だけでなく登記をすることにより登記上直接に不利益を受ける登記義 務者が共同して登記を申請していることをもって、登記の真正を担保するための措置の一つとして位置付けていることによるものです。
しかし、相続人に対する遺贈は、遣言の内容に基づいて被相続人から相続人に対して権利の移転が生ずるという点では特定財産承継遺言と同様の機能を有するものであり、特定財産承継遣言に基づいて相続による所有権の移転 の登記の申請がされる場合と同様に登記原因証明情報として遺言書が提供されるのであれば、遺贈による所有権の移転の登記の真正は特定財産承継遺言に基づく相続による所有権の移転の登記と同程度に担保されるということができます。
加えて、一部改正法では、遺贈により所有権を取得した相続人に対して所有権の移転の登記の申請義務が課されているところ、その申請を促進し、所有者不明不動産が発生することを予防する観点からは、その登記手続の合理化・簡略化を図ることが有益であると考えられます。
以上を踏まえ、相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記(注2) についても、登記権利者(受遺者)による単独申請が可能とされたものです(注3) 。
(注 2) 相続人以外の第三者に対する遺贈については、これを相続(特定財産承継遺言)による所有権の移転と実質的に同視することができないことから、新不登法63条 3 項の規定の適用対象外とされており、従前と同様の手続によることになります。
(注3) 新不登法63条 3 項では、相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記については、登記権利者による単独申請が可能とされていますが、登記権利者と登記義務者の共同申請によってすることが排除されているわけではありません。
(出典:Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法)
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