旧民法730条2項「養親が養家を去りたるときは其者及び其実方の血族と養子との親族関係は之に因りて止む」

旧法と相続
旧法と相続

旧民法730条2項「養親が養家を去りたるときは其者及び其実方の血族と養子との親族関係は之に因りて止む」

 

「大正時代にとある家の養女になったAがその家の家督を継いだ後に、実の妹Xと養子縁組をした後、昭和14年の隠居・結婚に伴いAが養家を去った場合、AとXの養親子関係(ひいては相続関係)は消滅するのかどうか」が争われたものです。なお、Aの相続開始(死亡)は平成時代に入ってからであり、Aには実子Yが存在します。

 

 現在の法律で単純に考えれば、AとXは離縁していないのだからAX間に親子関係は存在し、ひいては相続関係も存在するとなりそうです。ところが、Aの相続開始は平成に入ってからではあるものの、上記のAX間の親族関係が発生したのはいずれも戦前の旧民法の時代なので、AとXの親族関係(ひいては相続関係)を判断するには旧民法をも参照して判断しなければなりません。

 そこで、旧民法ですが、次のような規定がありました。 旧民法730条2項(現代語訳) 「養親が養家を去りたるときは其者及び其実方の血族と養子との親族関係は之に因りて止む」  

この条文を事案に合わせて読むと、「養親(A)が養家を去ったときは、養親(A)と養子(X)の親族関係(親子関係)は消滅する」というふうに読めそうです。  実際の裁判ではこのAX間の養親子としての相続関係の有無が争われたのですが、裁判所は、旧民法730条2項によりAとXの養親子関係は消滅したので、AX間に親子としての相続関係は存在しないと判断したようです。いわば条文どおりの判断です。

 因みに、養子が養家を去ることを法律用語で「去家」といいますが、この「去家」という文言については、該当する事実があっても直接戸籍に「去家」と記載されたりはしません。そんなわけで、第1審、第2審の裁判では事案が旧民法730条2項の去家に該当するものであることが見過ごされたのではないか?と考えられます。

 

【最高裁平成21年12月4日第2小法廷判決・破棄自判判例タイムズ 1317-128】

Xは故A女の養子であると主張して、A女の実子であるYに対し、A女がその遺産の多くをYに相続させる内容の公正証書遺言をしたことにより、遺留分を侵害されたとして、価額弁償を求めた。  

 

事情は以下の通りである。

①A女は大正6年9月17日、B男との間で同人を養親とする養子縁組をして、同人が戸主であるB家に入り、大正8年6月11日同人の死亡によりその家督を相続した。

②Xは、昭和14年8月30日、実姉であるA女との間で、同人を養親とする養子縁組をした。

③A女は、同年11月2日、隠居した上、同月29日、C男と婚姻してB家を去った。

④A女は、平成10年11月17日、長男であるYにその遺産の多くを相続させる内容の公正証書遺言をした。

⑤A女は、平成15年5月24日死亡した。

⑥Xは、平成16年5月13日、Yに対し、遺留分減殺の意思表示をした。

 

 Xの請求は、認められるか?

【解答】 認められない。

(理由)  最高裁は、以下のように述べ、XがAの養子であるとする前提自体を否定し、Xの主張を退けた。 「昭和22年法律第222号による改正前の民法730条2項は、「養親カ養家ヲ去リタルトキハ其者・・・・ト養子トノ親族関係ハ之ニ因リテ止ム」と定めるところ、養親自身が婚姻又は養子縁組によってその家に入った者である場合に、その養親が養家を去ったときは、この規定の定める場合に該当すると解すべきである(最高裁昭和42年(オ)第203号同43年7月16日第三小法廷判決・裁判集民事91号721頁参照)。前記事実関係によれば、A女は、B男との養子縁組によりB家に入った者であって、被上告人Xと養子縁組をした後、C男と婚姻してB家を去ったというのであり、B女の去家により、同項に基づき、B女と被上告人Xとの養親子関係は消滅したものというべきである。」

 

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