法定後見制度を利用されている方がなくなった場合、死後事務をどのようにしたらよいのか、後見人であれば、誰でも出会う疑問点である。施設に入っていられる被後見人のほとんどと言っていいくらい、親族との関わり合いが希薄な方であるため、本人が死亡したときに、一番頭を痛めるところである。
後見事務は本人死亡と同時に終了することが次のように民法では明文化されている。
(委任の終了事由)第653条 委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡
しかしながら、今まで面倒を見ていた本人に関する一切の事務、財産管理をすぐにやめることが出ないため、民法は、
(後見の計算) 第870条 後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、2箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる、と定めています。
これは、財産管理の規定であり、死後の事務処理の面では、明確な規定がないことから、苦労が伴う。そこで、(委任の終了後の処分) 民法654条 委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない、と規定されています。
被任意後見人甲が死亡した場合、例えば、乙が甲の任意後見人になっていた場合、民法の委任契約によれば、乙の任務は終了(第653条1号)し、甲のための行為はできなくなるというのが民法の規定です。
また、甲の財産は相続人(相続人がいない場合には相続財産管理人)に帰属するため、乙は生前から財産を管理していたにもかかわらず、甲の財産からの一切の支出ができなくなります(法定後見も同じです。)。
しかしながら、乙は甲の死亡と同時に一切の手を引かざるを得ないということは、倫理的にも劣る行為となるため、(委任の終了後の処分) 民法654条によれば、「応急処分」といって、急迫の事情があるときには必要な処分を認めております。
最三小判平成4年9月22日は、民法653条1項は任意規定であって当事者がこれと異なる合意をすることも許されるとして、委任者の死亡によっても終了しない旨の死後事務処理の委任契約を有効としています。
そこで、上記の不都合を払拭すべく、死後事務委任契約というものが広まっています。被任意後見人甲と任意後見人乙が生前に、死後事務委任契約(死後事務委任契約とは、委任者(本人)が第三者(個人、法人を含む。)に対し、亡くなった後の諸手続、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等についての代理権を付与して、死後事務を委任する契約のことです。)を締結していた場合は、死亡後が安心であるということになります。
死後事務処理委任契約の範囲の問題は、死後事務委任契約で対応できる委任事務の範囲です。委任者甲の死亡によりその財産は既に相続人のものになっていますから、相続人の権利を害さない配慮が必要です(事務処理として、緊急性、必要性がある場合で、相当性が認められるもの)。
委任事務の範囲として代表的なものとしては、病院・施設等の明渡し、その費用の支払、葬儀、その費用の支払、永代供養があります。
永代供養については、葬儀を終えたものの、納骨しないまま放っておくこともできません。身寄りのない甲が墓を有していない場合、その納骨は永代供養にせざるをえないと考えられますので、死後事務委任契約の対象とすることも可能となりますが、費用が高額になる場合もあるので、その支払は、甲の生前、特に判断能力が十分な時点でしておいた方がいいということになりますし、私どもの事務所は遺言で書いておくことを勧めております。
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