相続人と賃貸借

【相談内容】

   相談者Aの父Xは会社員でした。Xは妻Yと死別後、Xが敷金を払って契約を行い、Xの長男Bが連帯保証をしました。賃貸マンションで内妻Zと生活を始めましたが、出勤途上、歩行者用青信号に従って横断歩道を歩行中に車にはねられて死亡しました。

 Xの財産は、現金、預貯金、株式。Xの子はA(Xの長女)とBです。 生命保険は、保険金受取人がZに指定されていました。 会社からXの死亡退職金が出るようです。

 

Q1.家主からBに家賃の請求がありましたが、払う必要がありますか。

   連帯保証人Bへの家賃の請求につき、賃貸契約での連帯保証人とは、部屋を借りている人がお金を払わない時に、その請求を連帯保証人にすることが出来る仕組みです。

 よって、Xが賃料を支払うことができない場合は、連帯保証人Bに請求ができるのです。したがって、支払う必要があります。連帯保証人が支払いを拒否したくても、拒否することはできません。

Q2.相続人は賃貸借契約を解除してZを退去させられますか。

 (居住用建物の賃貸借の承継) 借地借家法第36条では、居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。との規定があります。

本件では、被相続人Xには、内縁の妻Zがいますが、相続人ABもいますので、本条を見る限り、相続人からの明渡請求につき、内縁の妻Zは退去しなければならないのかという疑問を生じます。

判例の多くは賃借権の相続性を承認しながら、相続権のない同居家族の居住を保護する法的構成に努力を払っています。 従って、内縁の妻は、被相続人と同居をしていたという事情を考慮して、依然として居住権の存続を認められるべきあり、相続人からの明渡請求に対して、権利の濫用として法律上認められず、拒否できます。

Q3.死亡退職金は一般的に誰に支払われるのでしょうか。

   在職中に死亡した場合の退職金の受給権については、相続財産なのか、遺族固有の権利なのか、法的性格について大きく2つの見解に分かれます。

すなわち、相続財産であれば、民法所定のとおり、基本的には相続人が法定相続分で分割取得することとなり、遺族固有の権利であれば、相続とはかかわりなく、特定の遺族が受給することとなり、他の相続人と分割する必要はありません。

   死亡退職金の受給権者の範囲・順位等について法令、労働協約、就業規則等で定められていれば、それに従って第1順位の者に全額支給すればよいのですが、これらの定めがない場合には、死亡退職金受給権は、相続財産として、相続人が法定相続分で分割取得しますので、法定相続分に応じて支払うことで対応すべきでしょう。

Q4.ほかに何か留意すべきことがあれば教えてください。

   生命保険は、保険金受取人がZに指定されていますが、生命保険金の受取人が特定人に指定されているという場合には、その生命保険金が受取人の固有財産となり、相続財産(遺産)に含まれないことになります。ただし、近時の最高裁で「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情がある場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる」すなわち遺産分割において考慮されるという判断がなされました(最高裁平成16年10月29日決定)。